派遣で塾講師をテーマに綴っているこの記事、3回目の今回は、ビックリな(というかやるせない)出来事を少しだけフィクションを入れて、お話したいと思います。

派遣で塾講師に採用されると、多かれ少なかれまずは配属になるであろう教室へ伺って、教室の責任者の方と配属後の業務内容についてや、引継ぎの伝達、指示出しなどのミーティングが行われます。
基本的には、派遣元担当が同席し1回、次は講師だけで1~2回、配属予定の教室に行きます。一部の例外もありますが、時給(給与)・交通費の発生はありません。
(この段階から給与(または交通費+事務給の場合あり)を支給してくれる良心的なところもあるにはあります)
そして、派遣先担当との顔合わせや引継ぎが終わり、晴れて「○月×日から勤務開始」となれば、立場は派遣であっても「○○塾××教室所属の講師」いう立場で勤務スタートです。
基本的に、立場が派遣であるいうことは職員しか知らず、生徒や保護者には絶対バレることはありません。また、自ら派遣であることをバラすのはご法度です。(生徒や保護者が動揺し、下手するとクレームになる)

この「事前の顔合わせ」にまつわるエピソードを1つ。

以前、私が出会った講師さんの中で、文系教科(英語・国語・社会)を専門とされている先生がいまして、この先生、非常にクセのある先生なのですが、高い授業力と、若手にも引けを取らず、ましてや学生講師などが何人かかって行っても勝てないくらいの、長い経験、深い見識をお持ちで、非常にまっすぐな性格の先生でした。
ただ、まっすぐすぎるが故に、上司部下関わらず言うことは言うし、自他共に大変厳しい先生でもありました。特に、若手や学生講師がロクに予習もせずに授業をして、間違ったことを言ったりなんかしたらもう大変。「誰のための授業してんだ!」「授業料に見合った授業をしろ!」などとおっしゃる(笑)
まあ、おっしゃることは分かります。分かりますけど、いやはや、大変ですて。

しかもこの先生、何と派遣講師…。

ただ、その教室では誰よりも授業力は高く、生徒のコントロールも全てが的確で、実際に多くの生徒たちからも慕われていました。誇り高き孤高の「授業職人」という言葉がまさにしっくり来るような先生でした。
私自身も、この先生の授業に臨む姿勢や、考え方等々、自己反省を含め共感する部分も多くありました。もちろん、厳しいことを言うだけではなく、若手や学生の相談にもよく乗り、自分の授業を見学してもいいよ、というような気さくな部分も多くありました。
そんな先生(仮にA先生とします)が、烈火のごとく激怒する出来事がありました。

この先生と出会ったのは、東日本を中心に展開する大手、Eという塾で、集団指導と個別指導の両方をウリにしたいわゆるハイブリッド型の教室でした。
集団指導とは、学校と同じで複数の生徒に対し1つの教室で、時間内に1教科だけを教えるスタイルであり、個別指導とは1人か2人の生徒に先生が1人付き、それぞれに違う教科(同じ場合もある)を教えるスタイルです。
一般的には「個別指導の方が楽」と言われていますが、集団指導が長い私などの場合では、1つの授業の中で、複数教科を教える個別指導の方が大変という声もチラホラ聞きます。

そんなA先生、今まで様々な教室や校舎で活躍されているわけですが、縁あって私が勤務する教室に派遣されて来ました。
ここの教室長の先生、とても特徴的なキャラで、それなりに経験値も積んでいたようですが、いかんせん社員。「営業」「数値」にとことんこだわる方でもありました。
A先生、派遣の際にこの教室長と顔合わせをした時「文系専門です」と公言していたにも関わらず、フタを開けてみれば、文系・理系関わらす担当させられることに。最初のうちは「人手不足だから…」と黙って受けていました。
が、(主に個別で)理系の授業を振られることが多くなり、ついに「私は、文系が専門です」と教室長に言ったところ「ウチは特に○○が専門とか、ないんです」とビックリ発言。

「じゃあ、なぜ最初に文系か理系か聞いたのか」「最初から『文系理系関わらず担当する』と何故言わないのか」と相当激怒。そりゃそうですよ。私が聞いたって「言ってることが違う」ってなります。
最終的に、派遣会社が間に入ったようで、授業の件は一旦落ち着きます。

しかし、教室長は気に入らなかったのか、ことあるごとにA先生に厳しいことを言うようになります。A先生も負けずに言い返しますが、結局「教室長は私です!」という返答で全て済まされていたようです。
結局、A先生は不本意ながら、年度途中にも関わらず、その教室を去ることに…。

いくら相手が間違っていても、それを指摘する派遣講師の立場は弱いということの証明になってしまいました。
A先生の授業、私も時々拝見していましたが、とても工夫されていて、上手でした。
こんな魂の込められた授業ができる先生が、派遣というだけで教壇から去っています。
何ともやるせない、ビックリな事件でした。


それでは、また。